少年の日の思い出。
家の近くに森があった。その森は「中学校の森」と呼ばれていた。
中学校の校庭や校舎からよく見えたから。
その森は昼間でも薄暗かった。今思うと照葉樹林だったのかもしれない。
その森の中心に、そこだけスポットライトが当たったような木漏れ日がさす場所があった。
そこで美しいものを見た。
オレンジやピンクに光る小さい花、そして、青い蝶。
それがヤブガラシとアオスジアゲハだった。
ヤブガラシは造園の仕事では困った存在だ。切っても取っても毎年毎年しぶとく生えてくる。それで雑草といわれる。
しかし、アオスジアゲハにとっては蜜をたくさんもらえる大切な存在なのだ。命の蜜壺。
さて、ここで問題を1つ。
アオスジアゲハはヤブガラシに卵を産むでしょうか?
これは言い換えると、幼虫がヤブガラシの葉を食べて育つでしょうか? ということになります。
さて、アオスジアゲハが産卵したこの葉は、いったい何の樹木でしょう?
答えは、クスノキです。
クスノキもアオスジアゲハも南方系で、暖かい所を好みます。東北や北海道には生息していません。
アオスジアゲハはタブノキやヤブニッケイなど、他の樹木にも産卵します。しかし、それらはすべてクスノキ科の樹木です。
アオスジアゲハの幼虫はクスノキ科の葉しか食べないのです。
タブノキ ヤブニッケイ
ヤブガラシの花に、今度はアゲハチョウ(ナミアゲハ)がやって来ました。ヤブガラシの花の蜜は大活躍です。
では、2問目。
ナミアゲハはヤブガラシに産卵するでしょうか?
㋐ヤブガラシに産卵する
㋑クスノキ科に産卵する
㋒その他に産卵する
さて、ナミアゲハが産卵したこの葉は、いったい何の樹木でしょう?
答えは、ミカンです。
ミカンもナミアゲハも南方系で、暖かい所を好みますが、北海道にもナミアゲハはいます。それはなぜでしょうか?
ナミアゲハはミカン科の他の樹木、ユズやサンショウなどにも産卵し、幼虫はその葉を食べて育ちます。
サンショウはミカン科の中でも寒さに強く、北海道にも生えているので、エサには困らなかったわけです。
ナミアゲハの幼虫はミカン科の葉しか食べないのです。
サンショウ ユズ
このように、蝶の幼虫が食べる植物を「食草」あるいは「食樹」といいます。
蝶の幼虫は食草(食樹)が決まっていて、成虫(蝶)はその植物にだけ産卵します。
ですから、その植物を見つけたり、その植物を自宅に植えておけば、お目当ての蝶と出合う可能性が高くなります。
造園や果樹園側から見ると、蝶の幼虫は葉を食い荒らす害虫になってしまうのですが・・・。
さて、蝶たちに蜜壺を提供しているヤブガラシ。その一方で、つるは他の樹木に絡みついて一面を覆うし、地下茎はどこまでも長く伸びている・・・。造園にとってはとてもやっかいなブドウ科のつる性植物です。
しかしなんと、そのヤブガラシを「簡単になくす方法」があるというのです。
とあるお宅で、ヤブガラシを見つめるのは、地球の庭師といわれる、矢野智徳さん。
「この草は、とても素直な草。役目を終えたと思えれば、必ず姿を消してくれます・・・」と、彼はいいます。
そして、ヤブガラシを樹木からほどくと、くるくる丸く束ねて、地面に置くのです。切ったり抜いたりせずに・・・。
これだけでヤブガラシは無くなる、というのです。
えっ、 本当? では実験してみましょう。
シラカシに巻きついていたヤブガラシをほどき、くるくるリング状にして置いておいただけですが、だんだんと黒くなって枯れていきます。
なんと地下茎の方まで黒く枯れていく・・・。
ヤブガラシは他の植物の根を伝い、幹や枝に絡みながら立ち上がってこそ、勢いを増すつる性植物。絡みつくものがないところでは、徐々に衰退していきます。
それが、光合成ができなくなるからなのか、真菌類に分解されてしまうからなのかはよくわかりません。
* * *
自然界において、無駄なものは一切ない。
ヤブガラシが生える、何か理由・意味があるはず。
雑草は荒れた土地や、何度も何度も掘り返す畑など「大地が安定していないところ」によく生えています。
スギナなど他の植物が、荒れた土地を平面的・横方向に「再生」しようとするのに対し、ヤブガラシは大地を本来の姿に、立体的・縦方向に「再生」する役目があるのかもしれません。
おしまい
〈出典リスト〉
3、虫愛づる記録
4、公園昆虫記
8、なるほどの素
9、元気蝶
10、昆虫エクスプローラ
11、中央園芸のブログ
12、私の森.jp