マトリョーシカです。
風の谷のナウシカのお友達?
いえいえ、ワールドカップ開催国、ロシアの民芸品の人形です。
人形の中からまた、ひとまわり小さな人形がどんどん出てきます。
これを「入れ子構造」といいます。
アサギマダラ(浅葱斑)です。
本州から沖縄、台湾まで・・・はるばる「海をわたる蝶」として知られています。
八重山諸島・宮古島でのワンショット。
これも海を渡ってきたのだろうか・・・。
アサギマダラが翔ぶ宮古島の海です。
この幼虫の食草となるガガイモ科の植物は、どれも毒性の強いアルカロイドをふくみます。
アサギマダラはこれらのアルカロイドを体内に取りこむことで毒化し、敵から身を守っています。
「キレイなものには毒がある・・・」
アサギマダラの幼虫です。
そして、成長すると・・・
アサギマダラは蛹(さなぎ)になり、蝶となって飛んでいきます。
はい、おしまい。
→ おい! ちょっとまて~、「マトリョーシカ」はどうなった?
はいはい、ちょっとマトリョーシカ。
少しずつ、オチへと向かいましょう。
それでは問題です。
「さなぎ」まで進んだアサギマダラのうち何パーセントが
ちゃんと「チョウ」になれると思いますか?
㋐90%くらい
㋑70%くらい
㋒50%以下
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正解は㋒です。特に、低山地と海岸線の調査地では、20%くらいしか蝶になれないという研究もあります。
では、なぜそうなってしまうのでしょうか?
㊧マダラ・ヤドリ・バエ(斑寄生蠅)㊨マダラヤドリバエの幼虫
寄生(きせい)バエです。
ふつう、虫に寄生するといえば、鋭く長い針で、直接、宿主(しゅくしゅ、エサと住まいを利用する相手)の体内に卵を産み着けることをさします。
しかし、マダラヤドリバエ(以下ハエと約す)は、とても小さい卵(0.2mm)を葉っぱに産みます。
アサギマダラ(以下チョウと約す)の幼虫が気づかず葉と一緒に卵を食べると、体内に侵入します。
チョウの幼虫の体内で卵からかえったハエの幼虫は内部を食べ、チョウの幼虫が「さなぎ」になった時に外へ出てきます。
当然、「さなぎ」は蝶になれず、死んでしまいます。
* * *
私は小学生の頃、アゲハを「さなぎ」まで育てて、「いよいよ蝶が出てくるぞ~」と思っていたら、
なんと出てきたのはハチだった・・・この残酷な現実に当時すごくショックを受けたことを、今でもハッキリと覚えています。
自然界はキビシイ・・・だけど、だからこそバランスがとれている・・・。
画像的には、こんなイメージでしょうか。
えっ、これで終わり?
いえいえ、世の中そんなに甘くありません。
現実は、さらにコワイことが待っているのです!!
キスジ・セアカ・カギバラ・バチ(黄筋背赤鉤腹蜂)です。
キスジセアカカギバラバチの幼虫、という確証がありません。あくまでイメージです。
これは寄生バチです。
キスジセアカカギバラバチ(以下ハチと約す)が葉の表面に産む卵は、さらに小さく、たったの0.1mmしかありません。
チョウの幼虫は、気づかずに葉といっしょに食べてしまうことでしょう。
そして、チョウの幼虫の体内でハチの卵は幼虫になります。
ここで問題です。
チョウの幼虫の体内では、いったいどんなことが起こっているのでしょう?
㋐ ハエの幼虫もハチの幼虫もチョウを食べている
㋑ ㋐以外の考え( )
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正解は㋑です。
ハエは宿主のチョウの肉を食べます。しかし、ハチはチョウの肉を食べないのです。
では、ハチは何を食べているのでしょうか?
ハチは、ハエの肉を食べていたのです。ハエの肉を食べることで初めて成長できるのです。
ハエの幼虫がチョウの肉と一緒にハチの卵を食べてくれて、ハチがハエの体内に入れないと、エサにありつけずに死んでしまいます。
ハチが、ハエの「さなぎ」から出てくることが確認されています。
画像的には、こんなイメージでしょうか。
これを「二重寄生」と言っています。さらに、今まで三重寄生や四重寄生などもみつかっているというのです。
これはまさに自然界の「マトリョーシカ」ではないでしょうか。
この構造を使うと、作物や樹木の消毒に、毒性の強い農薬を使わずに済みます。
ある害虫が増えすぎたら、その害虫に寄生する生物を使って生物数をコントロールしてやればよい。
それでこれを「生物農薬」と呼んでいるのです。
(おしまい)
追記
この虫たちの生態を擬人化すると・・・
「肉を切らせて骨を断つ」というのは少し違っていて、「カッコ悪くてもしぶとく目的を果たす」という感じ。
ベルギー戦で日本は時間稼ぎして延長戦へ行ってほしかった。