みなさん、こんにちは
今年は季節の進みが早いそうで、湘南茅ヶ崎でも5月の始めに紫陽花が蕾をつけました。「紫陽花=6月」とこれまで感じていた花や樹々で感じる季節感、も今後は変わって行くのかもしれません。

―今月の「庭師の現場から」は、橋本さんです。
造園業界の長い橋本さんですが、竹内庭苑で働く前には、沖縄県石垣島でネイチャーガイドの仕事をされていたそうです。

(橋本)
船がもともと好きで、石垣島でダイビングのインストラクターをやっていました。自然を相手にする仕事が好きなのだと思います。大変だけれども、天候に左右される仕事が好きだから、やっているのだと思います。

-工業高校の建築課を卒業して配管工の仕事に就いた後、造園業界に転じたのは20代前半、ネイチャーガイドの他にも様々な業種を経験されましたが、造園の仕事は、一番長く、ご自身も気に入っておられるそうですね。

(橋本)
造園は、答えが一つではないところが他の建設業とくらべると少し違うと思います。他の建設業は寸法通りに作ることが求められるため、答えが決められていますが、造園は正解が一つではありません。曖昧さをもった仕事というか、やり方がたくさんあります。何だけが良くて他は全てダメ、ということでもありませんし

―答えが一つに限られない、というのは、数学のように公式に当てはめて正解が決まるものでは無い、ということでもありますね。

(橋本)
剪定一つとっても、樹種や場所、季節やタイミングによって方法が変わりますし、伐る人によっても違いがあります。その都度、出来上がる物が変わってきます。その点、技量や経験のある人の方が、対応できる場面が多くなると思います。持ち駒が多いと言えるのかもしれません。

剪定をしています
―自然は予測不能ですし、植物は同じ樹種でもそれぞれに個体差がありますね。設計図の計画通りに進めるのとは違い、「この場合にはこの方法で」と応えられることの積み重ねが造園技術の根本なのかもしれません。受け身からスタート、とも言えるかもしれません。

(橋本)
植木の手入れをすることも造園の仕事の一つですが、あくまでも自分の意見ですけれども、手入れをした後の庭木が、道行く方に、キレイとも汚いとも思われないのが一番だと自分は思っています。見た目がきれいなのはもちろんなんですが、何の変化も無く自然に見える方がいいのかな、と自分は思います。

―その場で自然に成長したような手入れをできるのが、一番上手な剪定と、他の庭師の方からもお聴きしました。若い人に造園の魅力を伝えるとしたら、どういう言葉をかけますか?
剪定後の掃除も丁寧に行います

(橋本)
その人その人が感じることなので、伝えることでは無いと思うのです。自分の考えを押しつけるようになってしまうので、わーっと言わない方がいいと自分は思います。『これだから、こうなんだ』というのは、自分は言わないかな。」

―長く経験を積まれて来た橋本さんが、そう仰るのは重みがあります。そのスタンスは、自然物に似ていると思いました。自分から相手に影響を与えようとして言葉や力を発するのでは決して無く、受け止める側の人に解釈を委ねるところが。庭木も「キレイでしょ」と、私たち人間に伝えるために紅葉していませんね。自然体って、こういうあり方なのかと思いました。

(橋本)
来るものは拒めないですからね。何とかするしかありません(笑)

-これまでで印象深い造園の現場というと、思い出すのはどのようなお仕事ですか?
芝を刈り込みます

(橋本)
竹内庭苑での一つひとつの現場の記憶はもちろん今もありますが、印象に残っているのは、若い頃の現場です。夏場の草刈は大変だったとか、野球場の芝張りの仕事とか。
公園に水飲み場を造った仕事は今でも覚えています。公園の仕事は管轄なのか造園業にまわってくるのですが、やり方も分からないし、どうすればよいのか分からず、うまく行かないことも多くて大変でした。造園以外の仕事もこれまでやって来て、お客さん相手に接客もしてきましたし、そういった経験が今は造園の仕事に活きていると思います」

―これから年齢と経験を重ねて行く中で橋本さんが大切にしたい事は何でしょうか。

(橋本)
技術的な事はもちろんですが、人とのつながりを大切にしたいです。相手が居ての仕事ですから。自分よがりでは仕事になりませんし、何もできないですよね。
お客様、一緒に働く人はもちろんだけれど、街路樹の手入れをしている時だったら通行中の人とか。人との出会いや人との付き合いがある、ということを大事にしていきたいです。普通の事だと思いますが。

-もし、自分よがりになりがちで行き詰っている人がいたら、どんな言葉をかけます?

(橋本)
その人の個性だから、それでいいと思います。「間違っているよ」と口で言っても分からないだろうし、相談されたら多少の話しはするかもしれませんが、それも、タイミングだし、ケースバイケースですよね。その人の気分を見て「今言えば、聴いてもらえるかな」というタイミングだと思います。何か一つ答えを決めるものでは無いと思うんですよね。

―庭木には、植えられている場所や樹種によって、剪定に適したタイミングがあります。
同じように人との関わりもタイミングがあって、先に答えが一つに決められているものでは無いことを、橋本さんの言葉から気づかされました。
造園を始め、大自然を相手に仕事をして来たからこその在り方なのかもしれません。