みなさん、こんにちは
猛暑の8月、いかがお過ごしでしょうか。夜も気温が下がらずに寝苦しい日もありますが、季節は立秋も過ぎ、暦の上では秋に近づきつつあります。

―今月の「庭師の現場から」は、安藤さんです。
職人歴20年以上の安藤さん、社員の中では最も経験豊富な職人です。

(安藤)

二十歳の頃からなので、25年くらいになります。間で別の仕事をしていた期間もありますが、なにかの仕事で植木を伐る手伝いをして、「自分に合っているのかな」と思うようになり、以来、ずっと造園の仕事を続けています。造園の職人が一番長いです。外仕事が楽しいというのもありますが、好きだから続いているというのもあります。

-造園の仕事のどのような点が、ご自身に合っていると感じますか?

(安藤)
一年中、同じところにずっと通うことがない点です。毎日毎日、同じ現場に行くわけじゃなく、ちょっとずつ変化がある点が自分には合っているなと思います。

大きなマンションの管理の現場は、チームワークを大事にした仕事が必要です、皆で同じことをやっていても終わりません。人間関係の難しい職種はあまり得意ではありませんが、マンションの現場では協力して作業に当たることができるのも、外の仕事は楽しいからかもしれません。

―長く続けられている中で感じる、造園の職人の特徴や良い点をおしえてください

(安藤)

良いか悪いか分かりませんが、「こだわり」があるところだと思います。仕上がりや進め方など、人によっても様々です。
自分のこだわりは、「こだわりが無い」のがこだわりです。
カッコよく言うと、「一つにとらわれない」っていうこと。
同じ木でも個人の御宅ごとに、植わっている向きや、家の方の好みもあるので、その場に合わせて伐る、その場に合わせることができる、というのが自分のこだわりです。
自然な風合いが好きな方もいれば、結構思いきって伐ってください、という方もいらっしゃいます。大きくなってしまったので強めに伐ってください、と要望を受けることもあります。

ー強めに伐りすぎて「そこまでやると良くないのでは?」ということは無いのでしょうか。専門知識が無いと伐りすぎて逆に芽が出ないこともあるのでは、と思ったりします。

(安藤)
確かに、葉の無いところで伐りすぎると、そのまま枯れてしまうこともあるけれど、ふつうの樹は大丈夫だと自分は思っています。そんなにヤワじゃないよと。やっぱり生きているので、生きようとするんです。

真夏の時期に葉っぱを何もなくしてしまうような事でなければ大丈夫だと思います。葉っぱを残しておくことは大事なんです、葉から蒸散が出来なくなってしまうし、葉っぱさえあれば、生きているか枯れてしまったか分かりますので。

-数多くの庭木に触れて来た安藤さんの口から出る「生きようとする」っていう言葉には、とても重みがありますね。庭木の実際の姿なのだと思います。昔と今とで、変わったこと・変わらないことを挙げるとしたら何かありますか。

(安藤)

 植木の種類に流行はあると思います。海外から入って来たものも増えたと思います。常緑ヤマボウシなんかは昔は見たことがありませんでした。昔もそうだったとは思いますが、育てやすさや育ちやすさ、管理のしやすさなどで、取り扱う植木の種類も変わっています。
 一方で、基本的な造園の技術は変わっていないと自分は思います。樹の伐り方の形も、パターンがそれほど多いわけでは無いですし。基本的な伐り方は昔から変わらないと思います。

―技術の基本形がしっかりとあるから受け継がれていくのが職人の世界だと思います。長く続けて来られた安藤さんだからこそ大事にしているものは何かありますか。


(安藤)

 お客さんに喜んでもらえる仕事をしたいです。これまで働いてきて、いろいろな人を見て来ました。お客さんのことをあまり考えないで、自分のやりたいことをやる人もいました。
 自分のやりたいことがお客さんのやりたいことなら良いけれども、そうはなかなか行かない時もあります。やっぱりお客さんに喜んでもらえるのが一番じゃないかな、と思います。

―若い人に勧めるとしたら、造園の魅力はどんなところにありますか

(安藤)

四季を感じられるのは一番あるのではないかな、と思います。仕事の現場には、毎朝、同じ頃合いの時間帯に出発するので、真夏と真冬で明るさが全く違います。気温、景色も違いがあります。
植木で言うと、葉っぱの出方も季節によって違います。新芽は、なんだかんだ言ってとても明るいので、5月と10月では植木の感じが全然違うんです。ちょうど5月頃は空気も多少乾燥しているので、空の青さも、ちょっと違うんじゃないかな、と思います。でも、これも、今、質問されて「四季の変化を感じていたな」と思ったことで、日常の現場で作業に追われてしまうと感じられないかもしれませんが。

―経験豊富な安藤さんにお聴きするのは畏れ多いですが、これからの目標や理想の職人像を教えてください

(安藤)

 植木を見ただけで、どんな伐り方が一番きれいなのか、判断できるようになりたいです。植わっている場所によって、違いが結構あります。
 色々な石組みを担当した現場も印象的でした。滝を見立てて石組みをするのですが、「もともとそこにありました」というように仕上げられるのが、いい仕事なんです。和風庭園には洋風の庭にあるような鮮やかさはあまりありませんが、渋い美しさや味わいがあります。
 職人の世界は奥が深いです。奥の奥まで行こうとすれば、辿り着かないと思います。それは、どんな事でも同じだと思いますが。出来る限り、深いところまで行きたいと思います。

―古くからある造園の技術を極めていくこと、お客様に喜んでいただくこと。樹を美しく魅せること、自然を美しく魅せること。安藤さんの挑戦は続きます。