京都、嵐山、嵯峨野。
あのイニエスタも訪ねたという、竹林の小径(ちくりんのこみち)。
これぞまさしく日本の美です。
タケ(竹)は、イネ目・イネ科・タケ亜科のうち、木本のように茎が木質化する種の総称です。
ところで、この「竹林の小径」にある竹ですが、どちらの竹だと思いますか。
㊧孟宗竹(モウソウチク)、㊨真竹(マダケ)
(ヒント)
㊧モウソウチクは、中国原産・渡来、日本にある竹類では最大で25mにもなる。
㊨マダケは、日本自生or中国原産、20mほどになり、竹細工に用られる。
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正解は㊧のモウソウチクです。
中国から渡来したものが増えて日本中に広がりました。
ちなみに、簡単に見分ける方法は、節のでっぱり部分が1つなのがモウソウチク、2つに割れて見えるのがマダケです。
ところで、みなさんは竹の花を見たことがありますか?
そもそも、タケに花があるのでしょうか?
次の㋐~㋒のうちで予想してみてください。
㋐花を見たことがある
㋑花はあると思うが、見たことはない
㋒花はないと思う
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01)
㊧モウソウチクの花、㊨マダケの花
竹にも花があります。
イネ科だけあって、イネ(お米)の花に似ています。
02)
竹は地下茎を張りめぐらせ、タケノコを生やしてどんどん増えていきますから、その竹林の竹はすべてクローンです。つまり、竹林まるごと1つの植物ということになります。
そして、竹の花が咲くと竹は枯れます。竹林全体が丸ごとすべて枯れて、再生するのです。
その周期は、マダケで120年、モウソウチクで67年といわれています。
* * *
03)
北海道、札幌、南郷通りの街路樹。
初夏、白い花が甘く美しく香ります。
北原白秋作詞、山田耕筰作曲の日本の童謡「この道」です。白秋が晩年に旅した北海道の情景を歌っています。
甘い香りを放つ白い花が咲く、この樹木は当時、アカシヤと呼ばれていましたが、現在は、ニセアカシアに訂正されています。
04)
ニセアカシア 。
北米原産のマメ科ハリエンジュ属の落葉高木。和名はハリエンジュ。1873年に渡来。樹高25m。
花からは上質なハチミツが採れ、全国の生産量の半分近くがニセアカシアによります。
マメ科植物特有の根粒菌(細菌、バクテリア)との共生のおかげで成長が早く、他の木本類が生育できない痩せた土地や海岸付近の砂地でもよく育つ特徴があります。
そのため、緑化資材として古くから使われてきました。現在、野生化したものが各地の空き地や河川敷などに広がっています。
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05)
さて、関東地方に戻ってきました。
ここは武蔵野の雑木林です。
開発から免れ、豊かな自然が残されています。
雑木林を構成している樹木は、陽樹が多く、アカマツ、クヌギ、コナラ、ケヤキなど。
中心になるのはクヌギ・コナラ林でしょう。ブナ科の落葉広葉樹で、秋の紅葉(黄葉)が美しい。
06)
㊧クヌギ、㊨コナラ
07)
雑木林のある里山の風景です。
里山(さとやま)とは、集落、人里に隣接した、人間の影響を受けた生態系が存在する山をいいます。ちなみに、里山の対義語は深山(みやま)。
07)
さて、みなさんは里山でこんな風景を見たことがありますか?
雑木林の中央にあるのは竹林です。モウソウチクの竹林ですが、自然のままに任せています。
さて、ここで問題です。
このまま自然の状態にしておくと、この里山はこれからどうなっていくと思いますか?
次の㋐~㋒のうちで予想してみてください。
㋐それほど変わらないと思う
㋑全部竹林になっていくと思う
㋒そのほかの考え( )
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08)
正解は㋑。雑木林内に侵入したモウソウチクです。もとからある樹木を枯らしてしまいました。枯れたのはコナラだろうか?
竹林と雑木林がミックスすると、残念ながら、両者は共存できません。
タケ類は成長力が強く、ピークの時は1日で1メートル以上成長します。地下茎で四方八方に広がりクローンをどんどん作ります。
そのため、クヌギやコナラなどは、あっという間に光を奪われ、水分・養分も奪われ、やがて枯れてしまいます。
京都の竹林は常にきっちり管理され、そうならないようにしていたのです。里山や雑木林を守るためには、竹林を放置せず、常に管理しないといけないのです。
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09)
長野県・安曇野のとある山。
山全体が白っぽい花に覆われています。
これはいったい何の花でしょうか?
09)
そうです。ニセアカシアの花です。
そして、ミックスしている樹木はアカマツで、もとは山全体がアカマツ林だったのです。
長野県でとれるハチミツの70%以上がこのニセアカシアの蜜なので、ここは養蜂場と思われるかもしれません。
しかし、なんとこの山のニセアカシアは、そこから勝手に増えて自然に群生したものなのです。
アカマツを枯らしてどんどん入れ替わっていき、そのうち山全体がニセアカシア林になってしまうのです。アカマツとニセアカシアは共生できないのです。
ニセアカシアは、増殖力が強く、種子でも増えますし、親株を中心に四方八方に水平根を広げます。
伐採しても切り株から10本以上の萌芽が発生します。つまり、切ると幹の本数が10倍以上になるのです。
さらに、成長が早く、再生した地上茎は1年で1m以上も伸長します。
耐暑性、耐寒性、耐塩性、耐乾性、耐陰性、耐貧栄養性まで持っているので、土壌を選びません。また、土の質を窒素過多(富栄養化)にするため、他の植物が侵入困難となり、長期にわたって単一群落となります。
極めつけは、種子が下流に流れると、河原で繁茂し、自生種を駆逐し占有してしまいます。
まるで陸上のオニヒトデのようです。とてつもないモンスター。とても管理しきれるものではありません。
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今まで話してきたように、人為的な手段で持ち込まれた植物のうちで、野外で勝手に生育するようになったものを「帰化植物」と呼びます。「外来種」の植物版といえます。
国も「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」をつくり、「帰化植物」を警戒しています。
実は、「モウソウチク」と「ニセアカシア」はそのリストに入っていたのです。
そのリスト中の「適切な管理が必要な産業上重要な外来種(産業管理外来種)」という位置づけです。
タケノコ・竹林、ハチミツは重要だが、生態系破壊は困る、だからしっかり管理してくださいね。といった感じでしょうか。
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ふたたび、雑木林です。
クヌギ、コナラは陽樹の落葉広葉樹林ですから、放置すれば、そのうちスダジイやタブなどの陰樹の常緑広葉樹林に移っていくはずです。(下は常緑広葉樹林の1つ、照葉樹林)
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しかし、そうなってはいません。
それは過去にクヌギ、コナラは薪(まき)やシイタケのほだ木として、里山の住人からの需要があったからです。
落ち葉や枯れ枝を採ることで、陰樹林化を防いで、陽樹林の状態を維持・管理してきたのです。それがいま荒れてきている・・・。
人間中心に、持続可能な開発のモデルとして、「荒れた雑木林」を整え、里山を復権させる考え方でいくのか。
それとも、自然保護の立場から、人の手が入った里山を「ニセモノの森」と見て、陰樹中心の常緑広葉樹林の原生林へ向かわせる考え方で行くのか。
外来種、帰化植物の問題は、「里山をこれからどうしていくのか」ということを我々にストレートに示してくれているのではないでしょうか。
(おしまい)
【出典リスト】
02) wikipediaイネ
03) さっぽろの街路樹
04) wikipediaニセアカシア
05) wikipedia武蔵野
06) 庭木図鑑 植木ペディア
07) wikipedia里山
08) 里山を歩く会
09) 穂高町学者村 管理事務所日記
10) wikipedia綾の照葉樹林