みなさん、こんにちは
今月より、竹内庭苑お仕事話しは、新シリーズが始まります。
タイトルは「庭師の現場から」

竹内庭苑では、社長のほか、現在16名の庭師によって、現場を担当させていただいております。
みな、年齢も違えば、性別も違い、造園職人としての経験年数も様々です。新卒で造園業界に入り技術を磨く者もいれば、全くの異業種から参入し、今までの経験を活かしながら造園業で新たなキャリアを築いている者もおります。

共通して言えるのは、みな、「気もちのいい人たちだ」ということです。
造園業になじみのない広報担当の自分にも、話す機会があると実に気もちよく接してくれます。
自然を相手にしている人特有の空気感があるのかもしれませんし、竹内庭苑特有の組織風土かもしれません。

新シリーズでは、そんな、竹内庭苑の庭師の一人ひとりにスポットを当てていきます。
初回の今月は、竹内庭苑の番頭、菅野さんです。

―竹内庭苑のHP上のメンバー紹介から察するに、菅野さんが竹内庭苑では最も長い職人ですか

(菅野)
そうですね。自分が最初の一番弟子です。29歳で入社して、この1月に39歳になったので、10年目です。
もう10年か、と。今まで仕事を点々として来て、一つの仕事をこんなに長く続けられませんでした。
10年続けているのか、と、自分の中では信じられない部分もあります。自分に何の仕事が合うか探していました。

-元から造園に興味があったのでしょうか。職人さんの世界はなかなか厳しいイメージですし。

(菅野)
実家は旋盤工業を営んでいたので、元から職人気質なのだと思います。
東京で働いていた時に、法被を着て剪定している植木屋さんを見て、カッコいいなと思っていました。若いころは仕事を点々としていましたが、田舎の自然あふれたところで育ったこともあり、30歳手前で自然に関する仕事をしたいと思うようになりました。
自宅の庭の剪定をしてくれた植木屋さんからは「造園の職人は厳しいよ」と言われましたが、竹内庭苑の求人に偶然出会い面接を受けました。今考えれば、社長はよく拾ってくれたなと思います。

―長く続けられている理由は、どんなところにあると思いますか。

(菅野)
自然を相手にするところ、いろいろな現場を担当できることが楽しいです。職人さんにもいろいろな人がいて。飽きが来ません。
実際、就いてみたら、造園の仕事は厳しかったのですが、社長からすべて教えてもらいました。技術だけでなく、礼儀や、人を思いやるところとか。自分は本当に出来なかったので。

-礼儀というと?具体的にどんなことでしょうか。職人さんは技術の世界と思っていたのでちょっと意外に感じます

(菅野)
たとえば、休憩中にペットボトルの飲み物を他の親方に渡す時です。自分は、キャップを指で摘まむように持って、他の親方に渡していました。
それを見た社長から、「お世話になっている人なのだから、お茶くらい、ちゃんと失礼のないように渡さないと」と、言われました。
相手は自分よりも長年経験されている職人さんです。入りたてのひよっこが、お世話になっている方に、そういうことするもんじゃないよ、と、いうことだったと、今になって思うようになりました。
(「こうやって渡すんだよ」、と、社長から教わったペットボトルを渡す仕草を実演する菅野さん。右手で握り、左手は底付近に添える)

―長く続く技術の職人さんの世界は、ある意味「伝統芸能」に似た部分があるのかもしれないと思いました。技術だけでなく、先輩や周りの人への敬意や感謝、思いやり、そういった心や姿勢を身につけることが、あの美しい日本庭園を造りだすには大事なのかもしれませんね。
仕事の点で言うと、一番弟子の菅野さんが造園の仕事で最も大事だと思う点は、どんな点でしょうか?

(菅野)
刈り込み、剪定、ロープワークなど技術的なこともありますが、大事なことは、道具の段取りと現場の把握です。どちらも、大事な部分を見落とすと仕事が進まなくなってしまいます。

-以前、田口さんにインタビューをした時も「道具の段取り」の大切さを伺いました。具体的にはどんなことでしょうか。

(菅野)
例えば草刈機が必要な現場で持っていった場合、草刈機の調子が悪くて使えなかったというような場面です。
朝、置き場で積み込む時に、なぜ機械の調子を確認しなかったのか、ということになります。
また、場所によって草刈機の刃の部分を使い分けるのですが、仕上げ用のコードを忘れてしまったという場面とか。
ホームセンターでコードを買うこともできますが、朝早い時間ですと、お店も開店前の場合もあります。
朝から仕上げをする場合、コードを忘れてしまったことで仕事が進まなくなってしまいます。

-遠い現場だと置き場まで取りに戻るのも難しいですしね。朝イチで仕事が進まないと、その日の現場を進める気持ちにも影響しそうです。「道具の段取り」の他にもう一つ大事な「現場の把握」は、どんなことでしょうか

(菅野)
事前に状態を確認できない遠い現場も、図面や写真で事前に確認はできます。特に図面は、施工場所の平米数から、常緑樹など樹木の数、場所、などすべて落とし込んであります。
図面を事前に確認して、当日、どこから取り掛かるか、どれくらい時間がかかるか、イメージし、計画をたてます。当日は、このイメージをもとに、流れるように作業を進めることができます。

事前に図面で現場把握をせずに、到着して「どこからやろうか」と取り掛かるのでは、時間ももったいないです。事故や怪我にもつながります。図面を使っての現場把握は、とても大切です。

-いかがですか。今月は竹内庭苑の一番弟子にして番頭、菅野さんにお話しをうかがっています。技術の習得だけではない、全体の把握力や、職人さんならではの「段取り8分(もしくは9分)」の実際が伝わってきます。

―菅野さんの番頭としての仕事についても教えてください。
技術を教える仕事は当然にあるのだと思いますが、他にはどうでしょうか。

(菅野)
社長からの指摘を受けながらですが、仕事のスケジュール割り振りは自分の仕事です。すべての現場に人を割り振ります。自分はまだ、スケジュールに人を当て込むだけになってしまうこともありますが、社長からは「ここの現場は、この人とこの人と、この人で行けば、いいんじゃない?」と指摘を受けます。全体を見ることができる人、教えられる人、新米の人、というようなイメージです。自分はその点を考えてスケジュール割りをすることまで、出来ていません。社長は自分よりももっと上を見ているな、と思います。自分は、皆と、もっとコミュニケーションをとって、全体的に皆の話しを聴いて、皆のことを知らなければならないと思います。忙しいと、突っぱねてしまう自分もいるので、気をつけなければなりませんし、他の造園屋さんも自分と同じように、現場と事務作業を両方担当しているので、自分も頑張らなければと思います。竹内庭苑の幹部のメンバーと協力して進めている最中です。

-職人としての姿勢を竹内社長から教えられたように、菅野さんが後輩の皆さんに伝えて行く役割もありますね。

(菅野)
造園職人の世界は高みを探求し続ける世界です。松の剪定をちゃんとできるようになったら一人前と言われますが、その先にも道があります。終わりがありません。
加えて、造園には歴史があります。日本庭園の個人庭は少なくなっていますし、今後、自分が造ることはないかもしれませんが、日本庭園の素晴らしさや美しさは自分達が一番わかっていなければならないと思います。昔の人たちが残してきたものを自分達が受け継いで残してあげないといけない、と思っています。
そのためには、自分自身もまだ出来ていない部分はありますが、伝えて行かなければならいないと思います。

―造園の歴史はとても古いですよね。「お仕事話し」で竹垣を紹介した時に知りました。

(菅野)
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のセットも、京都の有名な植木屋さんが造られています。短い時間で、苔までつくってしまう。すごいなと思います。造園は歴史があるものです。その庭をつくった人の考え方が、きっとそこにはあるはずです。それをひも解いて行くとおもしろいです。

―菅野さんご自身は、今後、どんな仕事をしていきたいですか。

(菅野)
個人庭の現場で、お客さんが、ハッと口元を手で押さえる仕草をするほどに驚かれたことがありました「こんなに綺麗になって」と。そういう時は本当にうれしいです。伐採も、ただ伐採するのではなく、美しくみせてあげる、というのが大切だと思います。魅せるものなのに魅せられていないと残念です。可笑しいと思われるかもしれませんが、樹に対して、もっと対話できるようにやっていかねば、と思います。一級施工管理士・一級技能士のどちらも合格したいですし、庭の歴史も、もっと勉強しなければいけません。お客さんに「どういう風に伐っているの?」と聴かれると、職人をやっていて良かったと思いますし、もっとお客さんは喜べるんじゃないかな、と思います。完璧は無いと思いますが、100%満足してもらえる管理の仕方を目指したいと。

-完璧は無い世界で100%を目指し続けるのは深いですね。理想とする職人像は、ありますか?

(菅野)
竹内庭苑には揃いの法被があります。法被の似合う職人が目標です。着れば誰でも着ることができる法被ですが、自分は、今はたぶん、似合っていないと思うのです。竹内庭苑のプライドを持って仕事をして、技術を極めていくと、だんだんと似合うようになって行くのかなと思います。
道具の段取りや現場の事前把握など、現場では自分はうるさく言うこともありますし、自分が社長から教わってきた礼儀の点などは時代が変わっても大事だけれど、伝え方は昔とは変える必要もあると思います。
ですが、造園屋さんをやっていて嫌な感じの人は居ないと思います。気もちいい感じのいい人ばかりです。造園という伝統を大切に、みなで和気あいあいと楽しく仕事して、自分も法被の似合う職人になり竹内庭苑を盛り立てて行きたいと思います。(終わり)

-いかがでしたか。造園は日本の文化を作ってきた歴史があります。それを現代に残して活かしていくのは、守ること・変えること、両方が必要なのかな、と、菅野さんのお話しを通じて自分は考えさせられました。
翌日の菅野さんの担当現場は、鎌倉市は極楽寺近くの山の中だったそうです。ひょっとすると1200年以上前には、大河ドラマの時代に生きた人たちが、まさにその現場に居たのかもしれない!?ロマンですね!
次回の「明日も庭師の現場から」、どうぞお楽しみに☆